kindleで1巻を無料で読んでから、購入して全11巻を読みました。面白かったー。
殺人事件を扱う探偵もので、お笑い要素が適度にあり、救いのない事件でも暗くならずに読めました。
『オキナガ』と言う架空の存在がリアル
ストーリーは一巻ごとに違う事件を扱う、一応、探偵ものです。
ミステリーかと言うと、ヒントが少なく謎ときは多分無理なので、人間ドラマを楽しむ感じのお話です。
探偵役は表紙の見た目は18歳の美少年だけど実年齢は88歳の『オキナガ』の雪村魁。
『オキナガ』と言うのは不老不死のいわゆる吸血鬼のようなものだけど、一般的にイメージされる吸血鬼とはちょっと違います。
その辺はストーリーが進むごとに説明されますが、社会に馴染んで…ないんだけど、現在の日本でちゃんと存在が認識されていて、『オキナガ』に関する法律があり、厚生労働省が管理していたりとやけにリアルです。
「なぜ、厚生労働省?」かと言うと、『オキナガと言う存在は病気にはならないけれど、本人たちが気づかないうちに病気を媒介して広めてしまう恐れがある』と言う理由から厚生労働省が管理しているのです。ありそう…。
そんな訳で、主人公雪村の相棒役は、厚生労働省の新人の伏木あかりちゃんと言う事になるんだけど、背が高くショートカットで最初は女性だと気づきませんでした。
実はこの二人には本人たちが気づいていない因縁があるんだけど、徐々に明かされていく様子が興味をそそります。
あかりの上司や警察などおじさんがたくさん登場しますが、嫌味を言ったり素直じゃない会話が実際に見て来たみたいにリアルで面白いです。
普通の人間が殺された時に警察からは情報が貰えないんだけど、オキナガが殺された時にはあっさりと警察から情報が入って来て『オキナガ案件だと話早い』的なセリフがあったりと、「あー、お役所だな」と言うエピソードが満載です。
実際には私はお役所の事なんて知らないんですが、ドラマや映画なんかで見たイメージそのままで、『オキナガ』と言う架空のはずの存在が、本当に実在するように書かれていいるので、「この世界の事をもっと知りたい!」と美男美女が出てくるようなお話ではないけど、ワクワクしながら作品のを楽しめました。
時代の流れに魅せられる
基本的には絵がキレイで、オキナガと言う不老不死が存在する世界の出来事なので、事件も何十年何百年と言う過去がからんできますが、回想での時代時代の背景が見ていて楽しいです。
昭和の家庭の風景と言うか、回想でこたつでの家族の会話の様子なんかは実家を思い出し懐かしくなりました。
時代ごとの日常の特徴が良く描かれていると思い、その辺もリアルです。
あかりの上司でオキナガの竹ノ内さんの服装や眼鏡(眼鏡必要なのか?)が時代により変化していたりと細かい変化が面白いです。
心の動きを絵で見せるのも上手く、過去と現在の記憶が交差するシーンなどカメラワークが映画を見ているような気分でした。(最近。『ラ・ラ・ランド』のラストのカメラワークが映画ならではですごくいいと思ったけど、この人なら漫画でも表現できそう)
と、絵で見ても楽しめたんだけど、人物はちょっと…。
ギャグなの?口がパックリ割れた絵が気になる
主人公の雪村魁は美少年設定のはずなんだけど、イマイチそう見えません。
横顔で、口がパックリ空いて間から背景が見えるのはギャグシーンの表現かと思っていたんだけど、シリアスなシーンでも普通に使われていて興ざめです。少なくとも美少年には見えません。まあ、見える箇所もあるけれど…。
性格も面倒でよく主人公として話が成り立ったなと言う気がしなくもないです。好きだけどね。
絵柄が重くないので、重々しい殺人事件の話も適度な笑いの要素と相まって暗くならずに読めたって言うのもあります。
でもね…、女の子が壊滅的に下手なのは…。
モブの今時のオシャレな女の子が完全に昭和でひどい。作者はファッションに全く興味が無い事がよく分かります。
オシャレ命っていう感じではない女性は普通で、外見はともかく中身は女性をよく観察しているなって感心します。
ヒロインのあかりなんかは眉毛も太く、背が大きいって設定があり、外見は可愛いって感じでは全然ありませんが、中身は普通の女の子で、話が進むごとに魅力が分かってきます。
よく漫画に出てくるような分かりやすい女の子じゃなくて、地味で普通過ぎて漫画のヒロインなんかにはなりそうにないタイプの子なので、本当によく話を成立させたなと思います。
1巻ごとの話は◎、軸のストーリーがイマイチ?
60年前から12年ごとに若い女を殺し内臓を抜き取っていく連続殺人鬼『羊殺し』を追うのがメインのお話ですが、一巻ごとに違う事件を追いながら徐々に羊殺しに近づいていくと言う内容になってます。
一巻ごとに趣向の違う事件で、シリアスだけど笑いの要素もあり、オキナガとは何なのか、雪村魁と羊殺しの関係は?などが明かされていき、毎巻とっても楽しめました。
が、メインの羊殺しの話がイマイチかな…。
犯人に対して、伏線が大げさすぎたような気がしました。
犯人は充分とんでもない奴ではあったんだけど、生きていく中で日常からは逃れられないと言うか、普通の人間としての側面もあったのかと思うと、巨大な悪の塊みたいな存在を想像していただけに拍子抜けです。
けど、つまらなかったわけでもないし、その後、ラストにつながる話が良かったんです。
犯罪さえも日常の中に存在する中で、その外側にいる『オキナガ』と言う存在の悲しさがあるんですよね。
美しいラストシーン
涙する雪村魁と、木漏れ日。
最後まで淡々とした調子で大きな盛り上がりもないんだけど、一体何を思って涙したのか…、静かで美しいラストです。
この漫画、表現が過剰ではないので、もっと怒ったり泣いたり、感情が爆発するシーンがあっても良さそうなのに、一コマだけ怒りの表情や悲しみの表情をするだけ。それ充分に多くを語ってくれます。
何気ない一コマでも想像が膨らんで、何度も読み返して発見や感慨があります。
ラストシーンがこんなに心に残るのは、普通の日常の描写の積み重ねがリアルだったからだろうな…と思います。
全11巻、読んで良かったです。
これだけ完璧なラストだと何も言う事はないです。
続編もいらない、けど、書いて欲しいな…。
ゆうきまさみさんの連載途中のインタビュー記事を発見!
http://konomanga.jp/interview/31730-2
kindle版を買いましたが、9・10巻あたりの見開きページの迫力がなかったのが残念。